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2009/09/25 (Fri) 03:57
池袋演劇祭と"Away Target"

池袋のある豊島区は、演劇に力を入れたまちづくりを標榜しています。

東京で演劇というと小劇場なら新宿近辺、下北沢、大劇場なら銀座とかあちらの方面が浮かびやすいところですけど、実はもともと池袋も相当に演劇が盛んな土地柄です。

東口なら「あうるすぽっと」、サンシャイン劇場、シアターグリーン、西口なら野田秀樹が芸術監督に就任した東京芸術劇場、池袋小劇場、GEKIBA・・・といったように、大劇場から小劇場まで揃っているため、場所には事欠きません。

そんな池袋近辺の劇場を舞台にして、例年9月1日~9月30日まで、『池袋演劇祭』なるものが行われています。この期間に催されている舞台を、審査員と観客の投票で評価し、最多得票を得たものに大賞が贈られる、というお祭りだそうで。

公演する団体が47団体、公募審査員が170名。
舞台は全16箇所、演目は47団体が参加、そして、ジェームス三木氏が作・演出、寺田農などが出演する「池袋わが町」の再演が決定しているとか。
http://www.toshima-mirai.jp/event/event02.html#080901

10年間池袋に住んでて割りに芝居好きな私も、そんなイベントが開かれていることを知ったのは最近知りました。9月もいよいよあと数日、まさに今がクライマックスですね。

そんななか、昨年の大賞受賞作、劇団bo-tanzによる"Away Target"が9月4日~5日の2日間、大塚ホールで再演となったのですが、そこで私は池袋演劇祭のレベルの高さを目の当たりにしてきました。

"Away Target"の舞台は1973年8月で、題材は金大中(キム・デジュン)拉致事件です。
簡単に説明すると、韓国がまだ軍部独裁政権下にあり、"独裁者"とも"近代化の父"とも評価される朴正煕(パク・チョンヒ)大統領が政権を握っていた時代の事件です。当時、金大中は民主化運動に最大の影響力を持った政治家で、60年代初め頃に軍事クーデターで政権を樹立、やや強権的な指導体制のもと、経済成長と国土開発を優先させた朴正煕の最大の対抗馬でした。

ところが、71年の選挙で際どい攻防の末に朴大統領が再選してのち、法律改正、憲法改正で独裁政権の権力が強化され、金大中は政治活動を封じられて窮地に陥り、国外に亡命当然の状態を強いられることになりました。

そして、日本に来て九段下のグランドパレスで同志に会ったのち、拉致されて足取りが消えます。主権を侵害された日本政府はこの事件の背景に韓国大使館および治安組織の関与があることを突き止めて公表し、金大中の保護に全力を挙げ、日韓関係は極度の緊張状態に陥るのですが、数日後、ソウルで負傷した金大中が発見され、無事に自宅に帰り着いて最悪の事態だけは免れた、と、そういう事件です。

題材が本当に謎の多い歴史上の事件であり、しかも高度な政治性をはらんでいるせいか、同じテーマを扱った芝居は観たことがありません。

かえって、日中戦争や太平洋戦争の方がまだ題材にしやすいかもしれません。
少なくとも、観る側と演じる側にあらかじめ共有された予備知識があって、芝居のメッセージや主題も、ある意味で一定の型の中に流し込むことができます。もちろん、そうではない斬新な作品というのもありますし、決まっているからといって、一概にそれが悪いというものでもないのですが。

それに対して、題材が金大中事件だと、ある意味で観客も作り手も白紙です。
事件から36年経って拉致された本人が亡くなりましたし、野党からの情報開示を求める声についても、日本政府は捜査継続中、の一点張り。韓国ではKCIAの組織的な関与があったことは認められましたが、依然、多くの部分が未解明のままです。想像を働かせる余地は色々ありますが、全く手つかずであるがゆえの難しさがあります。

そういうものに挑んでいくというその気概にワクワクさせられて劇場まで足を運んだのですが、予想以上に素晴らしい出来でした。わたしは平均で月1か2くらいの頻度で芝居を観ているのですが、これほど完成度の高い芝居は久しぶりに観ました。

主人公は裏金をチョロまかして地下に潜った、組織を離れた元・公安で、彼をリーダーとして陸上自衛隊の情報チームの退官者、新宿でバーを経営する在日コリアンのママたちが組んで結成された『飛ばし屋』が物語を動かします。危険を抱えた犯罪者をこっそりと高飛びさせる地下組織です。

そんな彼らのもとに主人公の公安時代の後輩から、韓国政府に狙われ、日本国内で拉致・暗殺計画が練られている"DJ"(金大中)の身の安全を保障するため、こっそりと彼をアメリカに飛ばして欲しいという依頼が入るというところから話が始まります。

とにかく脚本が実によくできていました。国際政治アクションというジャンルはどうしても登場人物や組織の数が半端じゃなく多くなり、しかもそれぞれの組織の思惑はみな違っています。本作でも飛ばし屋だけでなく、韓国政府(韓国大使館・KCIA)と陸上自衛隊情報チーム、公安、大阪府警、暴力団、果ては北朝鮮やアメリカまで絡んで来て、実に複雑な絡み方をします。

しかし、本作では物語の中で実に関係が良く整理されており、無駄な伏線や余計なシーンが何もなく、台詞回しの中で状況が的確に解説されてゆくため、本当に奇跡的なことだと思うのですが、日本や韓国の近現代史の知識が何もなくとも十分に楽しむことができる内容になっており、そこは一緒に観に行った友人も感心していたポイントでした。

わたし自身は大学で歴史を勉強していたので、ある程度の事前知識はありましたが、本作は時代の思想動向までもが反映され、冷戦時代の政治のリアリティが余すところなく表現されており、日本や韓国の歴史に関心をもっている人にとっても、すばらしくコクと味わいを感じられる舞台ではなかったかと思います。

自己免疫システム、というこの物語の隠れたキーワード・暗喩から始まる冒頭の非常に印象的なモノローグから、あっという間に非常にスピード感溢れる展開と演技で観客を引き込んでいった俳優さんたちも相当にレベルが高かったです。どの俳優さんも完全に役に同化していて、物語終盤、大きな見せ場が二つあるのですが、そこでのやり取りはまるで火花が散るようでした。

状況説明もアクションシーンも多く、長台詞の連続で、場面の緊張感を絶やすことができず、立ち回りも多いという舞台だったから、相当ハードであったことは間違いありません。各登場人物のキャラクターや内面が実に緻密に表現されて確固とした存在感があり、埋もれてしまう人物がいませんでした。これは凄いことだと思います。最初から最後まで舞台から熱が引きませんでした。

公演終了後、割れんばかりの拍手があり、脚本とDVD売り場は物凄い賑わいとなっていました。
私もあまりに面白かったので、セットで買ってきましたが・・・。

こういうテーマを選ぶ劇団がしっかりとエントリーしており、観る側もそれを選ぶ。
池袋演劇祭のクオリティと、池袋で芝居を観る人たちの情熱を感じましたね。

そんな劇団bo-tanz、今年も池袋演劇祭にエントリーされているとのこと。
9月26日(土)~10月1日(木)までの5日間、東長崎(池袋から西武池袋線2駅、約5分)の「てあとるらぽう」で『天狼新星』というSFモノをやるそうです。

実は既に予約済みで、今から楽しみにしているのですが・・・。

【劇団の告知ページより】

こうした演劇と物語がある日常・・・それもまた、池袋ぐらしの魅力であります。

【文責:モルガン太郎】
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